紫苑『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』(大和書房)

本書の紹介

 新型コロナウイルス感染症が流行した2020年。細々と続いていた仕事も減ってしまい、年金振込通知書を穴のあくほど見つめ、人生ではじめてお金と向き合った著者。一念発起して、節約生活を実行することに。衣、食、住ごとに実践し感じてきた、71歳のささやかな工夫の記録。
 中古住宅を買ったときの簡単な経緯にも触れられているので、買う予定のある人は読んでおいてもいいかも。いずれにしても節約の知識は役に立つしね。

選書の理由

 「月5万円の収入でどうやってやりくりしていくのだろう?」という素朴な疑問と、その知恵や工夫を知りたいと思ったため。わたしは今年4月から失業保険を受給する予定であり、その範囲内でしばらくやりくりしていかなければならないので、すがる思いで手に取ったことは確かである。月5万円でやりくりできるなら、失業保険でもどうにかできるかもしれない、と。
 「節約」と聞くと、なんだか無味乾燥で抑圧的な生活のように思えるが、節約を実行している著者はとても生き生きとした表情で、表紙の写真に納まっている。「こんな70代なら、素敵だな」と思ったのも、手に取った理由。

書評

節約しても食事はしっかり三食、頭をフル回転させて節約の工夫を

 著者はまず、食事から見直した。ただし、次の3点を守るようにしたとのこと。

① 一人でも三食ちゃんと食べる。
② 食費は月に1万円前後とする。
③ 安く、美味しく、かつ栄養のあるメニューを考える。

 筆者の1回の買い物の予算は1,000円。現在(この記事を書いているのは2024年1月)は物価が高騰を続けているので、1,000円以内となるとなかなか苦しいだろうが、100円前後の旬の野菜を数種類、鶏むね肉やいわし、レバーなどのたんぱく質を1つ、卵、牛乳を中心に買えばどうにか……といったところか。「旬の野菜は栄養がたっぷりで安い」と筆者はおすすめしている。じゃがいも、玉ねぎ、もやしは定番で、サバ缶やトマト缶も大活躍。乾物(ひじき、ごま、わかめ、昆布)も積極的に利用しているとのこと。
 また、筆者はそれまで続けていた着物ブログを節約生活ブログへと方針転換。出費を都度、ブログの読者に公開した。筆者は数字が苦手なのだが、それでも家計を公開する理由は、「苦手を続けるのはきっと頭の体操になる、これまで使ったことのない部分を使うのは脳活になるのでは?」と考えたから。このように、思考を柔らかく、発想を転換する筆者の心持ちこそが、節約生活を続けられる大きな理由なのだと思う。

着るものはリメイクして楽しむ、大人のTPOは着物で解決

 着物ブログを続けていたほど、著者は着物も、ファッションも好き。既製品でも、リサイクルセンターで購入したものや子が着なくなったものでも、とっておいた端切れや着物などをいかして、自分に合うようえりを変えてみたり、すそを足してみたりとリメイクして楽しんでいる。
 新型コロナウイルス感染症が落ち着いてくると、著者も公の場に招待されることが増えてきたそう。そのときに役に立ったのが、処分しようか悩んでいた着物。著者は着物の効果について、次のように語っている。

 シニアにとって着物効果はバツグンです。どこに行っても敬意を持って迎えられます。レストランでもホテルでもカフェでも。またシャネルなどのブランドショップにも堂々と入ることができます。

 確かに着物を着ている人ってそうかも。男性はちょっと時代錯誤な感じというか、コスプレをしている感じ、または古典芸能をしている人の印象が強くなってしまうけれど、女性には、はっとするね。着物か。40歳も目前だし、一着あつらえてみるのもいいかも。そろそろ和服が似合う雰囲気が出てもいい頃だと思うのだ。

住居も自分らしく、工夫をかさねて

 著者は現在、築40年の中古住宅で暮らしている。子の独立をきっかけに、公団住宅暮らしから一転、一軒家の暮らしにチェンジした。はじめは慣れずに鬱気味のときもあったようだが、キッチンの戸棚のデザインをリメイクするなど、キッチンまわりをはじめ、リビングや階段の明り取り窓なども自身の作品(?)で満たし、知恵と工夫で、著者らしい暮らしを手に入れた。
 一軒家を買うと決めたのも、散歩していて売り家ののぼりを偶然見つけたのだという。それから何となく気になり、あれよあれよという間に購入。貯金は底をついたが、住む場所というとりあえずの安心は確保でき、月5万円での生活も続けられている。家にもやっぱり、「縁」ってあるのかな。いつか住居を購入する機会があれば、わたしも「縁」を信じてみよう。

感想

 月5万円で暮らす、その方法というよりも、著者の取り組み方の姿勢や意識が読み取ることができた。もちろん節約生活のヒントになることはたくさん。
 「食」について、わたしは土井善晴先生に傾倒しているので、一汁一菜を続け(ようとし)ているが、旬の野菜をたっぷり使う、たんぱく質もしっかりとるなど、筆者の節約生活でいかせそうな部分は積極的に取り入れるつもりだ。ほそぼそと続けているnoteの日記にも、その日のレシートを転記して公開している。余計なもの(お菓子とか)を買うと恥ずかしいので、一応節約にはつながっている。……がまん、がまん。
 「衣」については、買っては売りを繰り返している自分を反省しながらも、裁縫のスキルがあると楽しそうだな、と思いながら読んだ。和服もね。やっぱり着物を一着持っていてもいい気がするな。
 それから、「衣」に関する中で、いい表現だなと思った一文を次にあげておく。

 帽子の良さ、素敵さは、つばが顔に作る影にあると思います。たとえば高校野球の球児たちがカッコよく見えるのは、帽子の作る影と光にあると思っています。太陽の光が強いほど、陰翳は深くなり、より彼らのはつらつとした生気を感じます。

 においたつような表現。球児のりりしさ、かっこよさはそこにあったのか。わたしは帽子が似合わないほうだけれど、いい感じの影を作ってくれる帽子を探してみようと思った。
 「住」、これはなかなか勇気がいるね。家賃を払い続けるよりも、住居を買ったほうがいいという話は、本書の中でも触れられているけれども。著者はミニマリストではなく、自分の気に入ったものたちと自分らしく暮らしている。そういう精神は、わたしにも合っているのではないかしらんと、断捨離に疲れた心にしみた。

まとめ

 「老後の生活に2,000万円が必要」と叫ばれたのはいつだったっけ。結局、自分らしく楽しく暮らすためにいくら必要かは、ひとりひとり違うのだな、と本書を読んで感じたし、勇気づけられた。浪費生活から脱却して、ささやかでも心地よく健康に暮らしたい、そんな気持ちになれる一冊だった。わたしたちの老後は、工夫と知恵でいくらでも明るくなるのだ。